あのうだるような暑い夏も終わりを告げ、季節は移ろい視察の旅での体験が日一日と思いでと化していく。その事に一抹の寂しさを覚えながら、ウガンダでの滞在に思いを馳せた。
記憶の奥底から楽しく実り多き日々が走馬燈の様に甦ってくる。御一緒した隊員のお母様方、引率して下さった隊員OGの後藤友里様、想いを同じくしている者同士、出発前の打ち合わせからもうすっかりファミリーの結束だ。任地は異なれど隊員同士の密な繋がりがその背景にはあるのだろう。私の知らぬ息子の現地での元気な様子をお母様方が語ってくれた。無口な息子と違い、気の付くお嬢さん方が親御さんに親切に様子を伝えて下さっていたのだろう。1時間位の打ち合わせにも関らず初対面からの懐かしい“旧友”の如く6名はすっかり打ち解けた。
長いフライトであったが、それすら感じさせないのは“旧友”との楽しい語らいからだ。飛行機の窓から見た、目を見張る砂漠地帯、しだいにポツリポツリと緑が見え始める。太古の昔、この大陸から私達人類の祖先が出現したのだ!人類の壮大な歴史が始まり、今この地に降り立とうとしている自分に静かな感動が湧き上がってきた。私はこの大陸で、視察の旅で、何か大きく変えられるに違いない・・・。そんな確かさを覚えた。
首都カンパラは日本には無い活気、騒々しさに満ちていた。メインストリートを抜け、一つ道を外れていくと想像を遥かに超えたものがそこにはうごめいていた。混沌とした通りには桁外れの人の波、クラクションの音が絶えない。首都独自の危険な匂いも漂っていた。そんな一面も目にしつつ、私達はJICAからの安全で美しいホテルに案内され、長旅の疲れを取った。?
鳥のさえずりで目が覚め、ゆっくり朝食を楽しんだ後、日本大使館・JICA事務所と表敬訪問させて頂いた。ある意味危険と隣わせで奉仕に入っている隊員にとり、大使の大らかな温かさ、JICA事務所からの細やかな対応は大きな後ろ盾であり、経験豊かなJICAスタッフ皆さまからお話を伺えた事は、大きな喜びであり安心となった。
心丈夫で首都を離れ、いよいよ息子の任地に出発する。
行く途中、サファリに立ち寄りキリン、ゾウ、ライオン、シマウマ、カバ、ワニ、・・・と名前さえ分からない多種多様の動物にお目にかかった。動物はこのちっぽけな人間を全く恐れていない。「よくぞ来た」と招いてくれているようだ。私の住む家の近くにもサファリパークなどものがあるが、ここは正しくアフリカだった。
赤土の道を乗り合いバスに揺られ、任地Kiboga県に入った。大きな大きな木の下に笑みを浮かべながらゆったりと人が座っている。時間の観念が忙しすぎる私達日本人と大きく異なっている。
ボコボコ道を奥に奥に入り、ようやく息子の家に着いた。(水も電気も無い所でどんな生活を送っているのだろう??)私は心配するというより興味津々だった。部屋には大きなドラム缶があり、雨水を外からホースでドラム缶に引き溜めていた。溜めた雨水を料理に使い、洗面浴用に使っている。よく考えたもので上出来だ。 ウガンダ産の豆を挽き、溜めた雨水を沸かして飲んだコーヒー、この地で採れた食材での簡素な料理、何を食べても美味しいのだ!
窓にはアフリカらしい柄の布地をカーテン代わりに取りつけてあり、土間にはベッドらしき寝床がある。文明の利器が無くとも隊員達はそれぞれ皆自分の城を愉しんでいるのだろう。私はホームステイする客人の様にくつろがせてもらった。正直ホテルよりゆっくり眠れたのだ。
コケコッコー!と鶏が朝を知らせてくれる。ドアを開けると鶏が歩き回っている。遠くに牛の放牧も見える。豚小屋では賑わしい朝の食事が始まった。裸足で駆けている子供達、瞳の何と輝いていることか!水も電気も無いこちらから見れば不便とも思える生活の中、真摯に生きるウガンダの人々に出会い、その優しさに直に触れる事ができた。村落開発普及員として現地に入っている息子がお世話になっている農家さん方、ルガンダ語を教えて下さっている小学校教師のリチャード先生、校長先生、生徒さん達、訪ねる先々で胸いっぱいになる暖かな持てなしを受けた。
イエス・キリストの誕生日、クリスマスに生まれたというパトリックさんの赤ちゃん、クリスマスに因み、赤ちゃんにシャローム(平和)と名付けたと仰る。「抱いて下さい。」と私の胸の中に「平和の使者」が舞い降りた。愛くるしい表情で私を見つめる。私の心は平和に満ちた。抱いていたかに思えたが、私はこの赤ちゃん「平和の使者」に抱かれていた。
人類という家族は一つであろう。戦争や紛争、地球規模で次々に起こる災害の中、国籍や民族を超えた世界市民としての支援を続けているJICA、そして隊員達、バックには協力隊を育てる会も支えている。これから凄まじい勢いでアフリカは近代化の道を歩み続けていく事だろう。シャロームの中の赤ちゃんのように皆が平和で暮らせる世界に・・と切に祈る。
息子の任地最後の晩、天が祝福しているかのように夜空は星で埋め尽くされた。深い深い静けさだ。水は無いのにホタルのような夜光虫が暗闇に光を放ち、この世のものとは思えない。涙が頬を伝った。この地を去り難く独りいるまでも満天の星空を眺め、この旅は何だったのだろう・・・と考えていた。
現地で我が子の生活を見、今日まで息子の成長に大きな影響を与えて下さった方々の顔が目に浮かんだ。長旅を快く送り出してくれた家族、善き旅を祈っているわよ!と見送ってくれた掛け替えのない友、JICA事務所始め、この旅でお世話になった方々、ウガンダの地で共に成長した“旧友”、そして実の娘でもあるかのような関係が築けた隊員のお嬢さん方、沢山の沢山の恵みに感謝している。
オードリー・ヘップバーンがかつて「2本の手」の話をしてくれた。1本の手は自分を支えるため、もう片方の手は誰かを支えるため。視察の旅を終え、今、改めて思う。隊員を見倣いながら、私もこの2本の手を惜しみなく使っていこう!
|