「ムリバンジィ!」「デリビーノ」「ジコモ」。この3つの言葉を何回言ったことか。しゃべれる現地語はこれだけ。息子の任地、マラウイのムペンバの人々は明るく気さくで私を快く迎え入れてくれた。現地語はもちろん英語すらしゃべれない私は、息子を頼りにしないとコミュニケーションがとれない。流暢ではないが、それを話せる息子が頼もしく思えた。
歓迎に、主食の「シマ」や家畜として飼っている「ハト」や卵焼きをごちそうしてくれた。家畜のヤギや鶏、鳩は特別な時にしか食べないという貴重な食べ物だった。貧しいながらも心優しくのんびりした人々、物が豊かではないけれど私をとても大事に受け入れてくれたのが嬉しかった。シマを手で食べている息子を見て、すっかり現地に溶け込んでいるなと安心した。
息子の家の前には、始終近所の子どもたちが集まってきて話しかけてくれた。私は毛糸で子どもたちとあやとりをしたが、一つの形が完成すると全身で喜びを表現してくれた。言葉は通じなくても心は通った。子どもたちの瞳の美しさや笑顔、人なつっこさが印象的だった。
息子の普段の生活も体験した。まずは、水を井戸から汲んでこないと生活できないこと。停電は少なかったものの衣食生活全部に影響する。日本では当たり前だが、水や電気の大切さを改めて感じた。出かける時、何回も乗合バスを利用したが、フロントガラスはひびが入っていたり、乗降口のステップが傷んでいたり、乗客が満車にならないと発車せず時刻表は全くないバス。日本では考えられない。最初はびっくり不安だった。「ETCカードを入れて下さい」車中で聞いた日本語。まさかこの国で聞くとは思わなかった。まだ日本に比べて台数は少ないものの、ほとんど日本の中古車が走っている。日本車の性能の良さは世界一と聞いているが、車も大切に乗ればまだ十分走れるんだなと思ったと同時に、日本人のまじめさと勤勉さを感じた。
サファリにも連れて行ってくれた。広大なやぶの中をジープで回り、インパラ、象、シマウマ、サルなどあらゆる動物たちと出会った。シシ川で見た目玉だけ出ているワニやカバの鳴き声。水辺に動物や野鳥が水飲みや水浴びに来ているのを、離れたロッジから眺めながら思った。「こんな大自然は日本では絶対見られない。私たち人間は動植物の自然界の領域を侵すことなく自然と人間が共生することが大切だ」と。また、西の空を染める夕焼けや満点の星の輝きが目に焼き付いている。
「精一杯今を生きること」。こうした「視察の旅」のご縁がなければ、私は気づかなかったと思う。行って良かった。心から感謝しています。情報に振り回されて自分を見失いがちな私たち。日本から出て客観的に日本を見てみて、改めて日本の良さや自分の課題を発見できると思った。日本の将来を担う若者たちに、もっと協力隊として関わってほしいなと思う。さだまさしの「風に立つライオン」のCDを毎日擦り切れるほど聞きながら、2ヶ月経った今でも鮮明に浮かんでくる風景や情景を回想しながら思い出にふけっています。 本当にありがとうございました。 |